【まなざしの先に】
第5話:「自分に還る旅と、世界が変わる瞬間」
介護福祉士の授業で「リハビリテーションとは、全人的回復であり、人間復興である」と聞いたとき、
私は、心の奥底が震えるような感覚に包まれました。
「リハビリって、ただ身体を元に戻すことじゃないの?」
そう思っていた私にとって、その言葉は雷のような衝撃でした。
──人は、もう一度、生き直せるんだ。
──身体だけじゃなく、心も、魂も、もう一度ふるわせることができるんだ。
それは、“再び自分になる”旅のはじまりでした。
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このコラムでは、日々の活動や地域での出会い、読書や小さな気づきを
「まなざしの先に」映る風景として綴っています。
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たとえば、「みんなのリビング」に来てくれる、ある人のこと。
パーキンソン病を抱えながらも、麻雀がとても得意で、
ある日、麻雀初心者の方と一緒にゲームをしに来てくれました。
ゆったりとしたペースで牌を並べるその手つきには、
病を超えた誇りや、自分らしさが宿っていました。
「また来て、一緒にできたらうれしいです」
と笑ったその言葉が、じんわりと場の空気をあたためてくれた。
これからも、体調と相談しながら、健康麻雀のボランティアとして
来てくださる予定です。
病気があっても、人を支え、場に光を届けてくれる。
ポーラスターの活動をそっと応援してくれるその姿に、
私は、静かに心を打たれています。
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リハビリテーションは、
人間を「部分」で見るのではなく、「全体」として見る試み。
フランスの哲学者メルロ=ポンティは、
「人間は身体そのものとして世界とつながっている」と語りました。
身体はただの器ではなく、
感じ、想い、語りかける“存在そのもの”。
だからこそ、
身体の回復だけでなく、
心がやわらぎ、魂が自分を思い出すような回復こそ、
ほんとうの“癒し”だといえるのです。
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WHOが語る「スピリチュアルヘルス」
1984年、WHO(世界保健機関)は、
健康の定義に「スピリチュアル(霊的・魂的)な側面」を含めるべきだと認めました。
それは、宗教という意味ではなく、
人生の意味や希望、生きる意志や価値観といった
“見えないけれど、その人らしさの根源”に関わるものです。
つまり、健康とは
「ただ体が整っている」状態ではなく、
「生きる意味を感じられること」もまた、大切な一部なのです。
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一人の再生が、世界を変える
みんなのリビングでは、
病気があっても、年齢を重ねても、
「ここでなら、わたしにできることがある」
そう思ってもらえる場所でありたいと思っています。
リハビリテーションは、
単なる治療の延長ではなく、
“その人の人生を、もう一度やさしく開いていく”時間。
その一歩が、やがて周囲の人の心を揺らし、
世界の景色を変えていく力を持っているのです。
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最後に
全人的回復は、
身体・心・魂の三つが結び直されていく、静かな奇跡。
人間復興とは、
その奇跡が個人を超えて、社会や時代にまで染みわたっていくこと。
あなたが誰かのそばにいて、
まなざしをそっと添えるとき、
そのやさしさが、
誰かの「もう一度、生きたい」につながるかもしれません。
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その人のまなざしの先に、
再び、光が灯るように。
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誰かの「もうだめかもしれない」が、
「もしかしたら、まだできるかも」に変わる瞬間。
それは、そばにいる誰かの“まなざし”によって
起こる奇跡なのかもしれません。
次回は、ICFという枠組みから、
人が本来の尊厳と誇りを取り戻す風景を、
一緒にのぞいてみませんか?
※現在、ボランティア基礎講座の参加者を引き続き募集しています。
ご関心のある方は、どうぞお気軽に中原区社会福祉協議会(なかはらボランティアセンター)までお問合せください。